感ずることの大切さ

Kさんは夫と離婚、6歳と4歳になる娘を育てながら、小さなスナックのママさんをしている。どうしても仕事に時間を取られて、子どもと過ごす余裕をなかなか持つことができないKさんは、お天気のよい日、夕方になると、2人の子どもを連れて海へいくことにしている。
3人で砂浜に座りながら、夕日が落ちていくのを眺めるのである。時には、その夕日の中を渡り鳥が一列に並んで飛んでいく。「お母さん、あの鳥さんたちは夕日の向こうへ飛んでいくの?夕日の向こうにはなにがあるの?」「さあ、鳥さんたちに聞かないと分からないわね」。沈黙の中での親子の対話…・・・・。
この親子のささやかな時の過ごし方の中に、現代に失われている大切なものが暗示されていないだろうか。現代の教育はもっぱら知識の習得のみが偏重されているが、Kさんがふたりの幼い娘と過ごした数刻の中にこそ、教育における原点のようなものを感ずるのである。
「優しい心は感ずる心だ。感ずる心を育てることが教育の根源だ」と、小林秀雄は言う。美しいと感じた時、本当だと感じた時、感じた心の中に豊かなものが育っている。
「一度ほんとうだと
感じたことは消えない
きっと自分のうちの
どこかで生きている
見えないところで
自分を生かしている
感じることが根本だ」
(宮崎丈二・詩)
美しいと感じ、本当だと感ずる。それは人間の理知分別よりはるかに深く、すべての人間に与えられているものである。この2人の子どもたちは、大きくなってもお母さんと並んで見た燃えながら落ちていく夕日の美しさを、その落日の向こうに消えていった鳥の群れを、夕日の中でお母さんと交わした対話を、いつまでも忘れないことだろう。(-生命の見える時- 松本梶丸)

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